Ain't That a Kindness
思い出話は最初、出逢ったきっかけから始まったのだが、そこには当然、その当時のMさんの恋人であり、OやKの友人であった私の名前が出てきた。ただ、彼らにとって私の存在は刺身のつまのようなもので、どうやって私の目を盗んで猥らな行為に及んだかが、彼らの話題の中心だった。その時の会話の詳細は知らないが、三人は三人の話題で盛り上がったに違いない。
そこまでは三人の肉欲の思い出だったが、Oが転勤を決め、Mさんがそれについて行ってからのことは、Kはよく知らなかった。時々OとMさんの卑猥な画像が送られてきたり、Oと顔を合わせた折に話を聞いたりはしたが、そう詳しく教えられたわけでもなく、特に半同棲のような格好になってからは、二人は二人だけの世界に閉じこもるようになってしまっていた。そこはKでも立ち入れない、聖域のように感じられていた。
単身赴任であるOは、時々子供の顔を見に帰っていた。逆に彼の妻が子供を連れて転勤先に現れることもあったが、OがMさんとの秘密を確保するために彼自身が行動する方を主に選んだ。おまけに、一番下の子供はまだよちよち歩きで、外出は覚束ないので、自然、Oの方が赴く割合が多かった。高速を車で飛ばせば分けない距離ではあったが、その帰郷の機会もいつしか少なくなっていた。それほど、新天地でのMさんとの生活が魅力的だったのだ。
置いてけぼりを食らったのはKの方だったが、彼の方でも生活に色々と変化が訪れ、友人同士と言っても昔ほど密に交流できるような歳ではなくなっていた。それぞれがそれぞれの持ち場で、責任が重くなっていくにつれて、若い頃のようには立ち行かなくなったのだ。だからこそ、時々逢える時にもたらされる、相変わらず下半身だけが暴走しているような話を聞く有り難みが、話す方も聞く方も貴重なものになっていたのだった。

