Little Rain
何処にでもあるような地方都市で産まれたゆりなは、物心ついた頃からスイミングスクールに通っていた。彼女の住む地域が、学校を中心にスポーツに力を入れていて、その中に水泳も取り入れられていた。だが、水泳部というものがその地区にはなく、自然とスイミングスクールがその役割を担っていた。整った施設を求めれば自然とそこが選ばれる必然でもあった。
学校から帰るとまっすぐプールに向かう毎日が日常で、自然と放課後はスクールの中のコミュニティーの中に放り込まれていた。それなりに有名なコーチの指導もあって、時々日本でもトップレベルの選手を生み出していたが、ゆりなはその端っこにぶら下がっている、といった感じで、それほど目を掛けられていたわけでもなかった。いわゆる平凡な選手だったのだ。
その点、一時はオリンピックを目指していたMさんとは違うのだが、そのことがゆりなの尊敬を惹いてもいた。Mさん自身、挫折した事をコンプレックスに感じていたが、ゆりなはそのレベルまで到達出来なかったことに悔いが残っていた。それでも、その頃は未だ希望に満ちて、まじめに練習を重ねていたのがゆりなだった。アスリートを根底から支えるのは、いつの時代もポジティブな意志なのだ。
学校を離れたところにコミュニティーが出来上がっていたが、それは水泳を中心にして、年代もばらけていた。その中で、似たような成績のいわゆる平凡な記録の選手達が、いつしかまとまって行動するようになっていた。先輩後輩という上下関係も緩く存在していたが、放課後を共有する仲間同士、という趣でいつしかスクールがなくても集まって行動するようになっていた。

