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運命の出逢いをそこで感じたとき、私との付き合いは打算に堕した。コレは今になって思うことだが、Mさん自身、適齢期や社会的な常識の中で、特定の相手の元に収まることを漠然と感じ、また周囲からやんわりと強いられていて、そこに偶々現れたのが私だったというわけだ。口説かれるまま、拒否する理由もなかったので、関係を続けた、というのが結局、私との付き合いの全てだった、というのが最も分かりやすい結果の答えだ。
部長との出逢いが、Mさんの中の理屈ではない身体が求めるサムシングで繋がる経験ともなった。そこで初めて、Mさん自身が本来ある、ずっと培ってきた淫欲に溺れる自分の姿を、一度は封印しかけて、やはり、とまた解き放ったのだ。おそらく、私と付き合い始めて、Mさん自身無理をしていたことに気づいたのだろう。それは私の与り知らぬことだし、まったく私が全ての責任というわけではないが、タイミングがそうさせたのだと思いたい。
つまり、その頃のMさんは両極端の体験をした、というわけだ。フィジカルに忠実に生きる道と、打算で生きる道と、その間に立ってMさんは自分が本来進むべき道を、探しあぐねていた、ということなのだろう。私とMさんの付き合いは二年と少しだったが、その間にどちら側に付くべきか、両方の道を行き来して値踏みしていたに違いない。そういう意味では、私という存在も意味は無かったわけでは無い、といくらか思えるのだ。
とにかく、部長と出会ってしまった。そのまさに第一歩目の夜に、Mさんは自分の中でその部長と繋がるあらゆるモノを体験した。言い換えれば自分が求めるものに、何度も気づかされ、胸に刻みつけたのだった。二人は離れがたいように長いキスを交わした後、やっと顔を離してお互いを見つめ合った。その時、全てを了解したように、笑い合った二人は、今度は何かを始める為に、もう一度唇を重ね合ったのだった。
